ダックス都丸のブログ

サラリーマンの隙間時間のクリエイティブなブログ

Naro メル子ちゃん

「探したぜ…けむくじゃら鳥野郎」 全長約3メートル、綿の様なもこもこな毛が全身を覆う怪鳥は 巣穴唯一の出口をふさぐ俺を睨みつける。

俺が産まれる少し前には魔王なんてのが存在し、 偉大な魔道師様とやらが、そいつを打ち倒し平和をもたらしたらしい。

争いのない生活が送れるのは、魔道師様のおかげ。 村のばあちゃんはよくそんなことを言っているが、 今の生活が争いがない生活だなんて俺は思っちゃいない。

国と国は対立しているし、 王都は王位継承で対立している。

そして俺も、盗人の鳥と対立している。 争いは無くならないのだ。

怪鳥は羽を広げ、臨戦態勢に入った。 「持ってったモン返してもらうぜ」 俺は怪鳥に飛びかかる。

「ふう・・・」 俺はひたいの汗をぬぐい、一息つく。 武器も魔法も使わず素手オンリーだったが、無事絞め落とすことができた。

「さーてと、先生がいつも付けてたペンダントはっと…」 くたばった怪鳥を横目に、拝借された光物の山を漁る。

「お、これジルが無くしたって泣きべそかいてたガラス玉じゃねぇか。 これは大工のおっちゃんの銀の金槌、色々なもん盗ってやがったなぁ」 「全部持って帰るか」

ヒューと風が吹き、戦い終えた俺の身体の熱を冷ます。 変わり目を告げる冷たい風だった。


木々に囲まれ、王都からは細く厳しい山道を超えなければたどり着くことのできない辺境村、ボアード。 「ゼブ坊!今日はずいぶんとでかいの仕留めたじゃねぇか!」 怪鳥の死骸を背負いた俺を威勢のいいおっちゃんの声が出迎えてくれる。

「おう!おっちゃんもずいぶんとでかい獲物を相手にしてるじゃねえか」 屋根の上で金槌を叩く声の主に向けて俺は言う。 「なーにこの程度、ウチのかあちゃんと比べたらヒヨコみたいなもんよ」

ガッハッハと豪快に笑うおっちゃんと俺。 おっちゃんのカミさんに聞かれてないことを祈るぜ。

「そうだ、おっちゃん。銀の金槌、コイツの巣穴にあったぜ」 背負った獲物を親指で指し俺は言う。 「コイツ他にもみんなのもの盗ってやがった。巣まで案内するからみんなで取り返しに行こうぜ」 「おー!そうかい!あれはお気に入りだったからな!ありがとな!!」 にっこりと笑顔をこちらに向けてくれるおっちゃん。

「おっと、釘が終わっちまった。」 そう言うとおっちゃんは屋根から飛んだ。 屋根から飛んだおっちゃんの身体は、まるで宙に舞う羽のように、ゆっくり、ゆっくりと降下した。

魔法だ―――。

「釘は後何本必要かな~。」 地上に足をつけ、工具箱を漁るおっちゃん。 そして何本か釘を持ち、今度は身体をフワりと浮かせ、屋根の上まで登っていった。

おっちゃんも魔法うまくなったなー。 そんなことを思い、俺は自宅へと向う。

怪鳥の死骸を持ち帰るので精一杯だった俺は、一つを除いて、盗難品はすべて怪鳥の巣に放置してきた。

持ち帰った怪鳥は生前よりも多少グロテスクな見た目になっているが、 基本自給自足で生活しているこの村の人々はこの程度で騒いだりはしない。 騒ぐどころか、先ほどのおっちゃんのように仕留めた獲物を賞賛する人もいるほどだ。

だからとはいえ、褒められたいが為だけに全長3メートルにも及ぶバカでかい死骸を運んできたわけじゃない。 綿の様な羽毛。これからの時期、コイツが役にたつのだ。

今の気温も暑すぎず、寒すぎずとても過ごしやすい気温だ。 しかし、これからあと数週間もしないウチに強烈な寒さに見舞われる。

この辺り一面の木々に生息する虫が空気中の熱を奪う卵をそこからしらに産みつけるらしい。 そのせいで今の気温とはうってかわり、急激に冷え込む。

卵が孵化し、繁殖した虫の天敵の渡り鳥がやってくるまでは極寒の時期なのだ。

当然この村で育ち、何度も極寒の時期を体験してきた俺含む、村の住民は当然防寒の準備はできるている。 だが今回は準備する必要があった。 この村で初めて極寒の季節を体験する人がいるからだ。

その人の為にその人の盗品以外を怪鳥の巣に放置し、死骸をわざわざ持ち帰ってきた。 ポケットに入れた、その人盗品を再度確認。

よし、ちゃんと持ってきているな。 盗まれたペンダントを返して。 その後コイツの羽毛で作った服をプレゼントして・・・

「ゼブル!!あなたどこに行ってたの!!」 考えごとをし、怪鳥を引きずる俺に、叱り付ける声。

セミロングの美しい白銀の髪。 スラッとしたスレンダーな体系。 ため息の出るような美しい顔立ち。 怒気を込めた声ですら美しい。

俺が怪鳥からペンダントを取り返しに言った理由、服をプレゼントしたい相手・・・ ルゼ先生だ!

「違うんだ!先生!!俺は先生の為に・・」 「言い訳は聞きたくありません!!」 俺の言葉を遮る説教。 「あなたはいつも私の授業を抜け出して・・・」

ルゼ先生は村唯一のエルフだ。 突然、傷だからけでこの村にやってきて、 村民が看病したら恩返しがしたい。ということで先生の得意な魔法を教えてくれている。

義理堅い心までも美しい先生だ。

「どうしてあなたは私の授業を避けるの?」 「私に何か不満があるの?」 先生は説教から質問攻めに切り替えてきた。

「いや、そんなことは全然!先生に不満だなんて!まったくこれっぽちも!!」 必死に否定する俺。 こんな美人で俺なんかを気にかけてくれる先生に不満なんてあるもんか。

「ならどうして・・・」 「ほら俺魔法苦手だからさ、みんなに迷惑がかかっちまうだろ?」 「なにを言ってるの!苦手な人の為に私がいるんじゃない!」 「いや、ホントにいいんだ。俺は魔法使えなくても困らないし、ほらこんなでかい奴だって仕留められんだぜ?」 運んできた怪鳥を指差し、先生の視線をそちらに誘う。

「確かに今回は魔法が使えなくてもなんとかなったかもしれない。でももっと強力な魔物に襲われたら?」 「俺は負けたりしねーよ!へーき!へーき!!」 「あなた一人が平気でも、誰を守らなければいけない場面になったら?それに魔法は身を護る為だけではなく日常生活でも役に立つわ。あなただってわかってるでしょう?」 たしかに先生が来てから、この村の生活はうんと楽に、便利になった。 高所への移動にはしごはいらなくなり、手間取っていた火起こしも一瞬。 夜に明かりを灯す家も増えた。

魔法が使えたら今まで以上に魔物との戦いも楽になり、生活も便利になるだろう。 それは俺でもわかる。でも俺は人前で魔法は・・・

「みんなの前で魔法を使うのが恥ずかしいのなら、二人っきりで特訓なんてどうかしら?」 「特別扱いは、嫉妬の対象となり彼にもいい影響を及ぼしませんよ。ルゼさん」 いけ好かねえリーランドの野郎が俺と先生の会話に口を挟んできやがった。 リーランドは手を後ろで組んでいるのか、腰の裏に手を回している。

「お呼びじゃねぇぜ、引っ込んでな。お坊ちゃん」 いかにもお偉いお家の坊ちゃんの格好をした男を俺は睨みつける。 「おや?私は助け舟を出したつもりだよ?ゼブル君?」 すっとぼけたような顔しやがって、勘に触る野郎だ。

リーランドはフッと鼻で俺をあざ笑い。先生の方に身体を向ける。 「元々魔法の授業というのは、王都に住む裕福な家庭の子しか受けられないものです。本来彼のような子には授業を受ける権利すらないのです。それに貴女は教師としても一流だ。そのような誰もが羨む権利を投げ出すような者に、時間を割く必要はありませんよ。」「私はこの村の教師です。教え子の為に時間を割くのは当然です。」 先生はいけ好かない野郎にビシっと言い返した。

「お見逸れ致しました。出過ぎた発言をお許しください。」 片手を前に振り、頭を下げるリーランド。 へっ!反省しやがれ!ぼっちゃん野郎!

「いえ、そんな!頭を上げてください。私の方こそ失礼しました。」 いえいえと手を振り、先生まで頭を下げてしまう。 こんな奴に謝る必要なのに・・・。

「お詫びと言ってはなんですが、こちら受け取ってはいただけませんか?」 リーランドは両手で紙袋を持ち、先生に差し出す。 この野郎!コイツもプレゼントを隠し持ってやがった!!!

「あの・・・これは・・・?」 困惑する先生。 突き返せ・・!突き返せ!!俺は心の中で念じる。

「貴女の研究の手助けになれば。と持ってまいりました。」 「まさか・・・極導の書!?」 「はい。」 笑顔を先生に向けるリーランド。

「でもこんな貴重な物・・・」 「そうですね。私も探し出すのは苦労しました。ですので、この後ご一緒に食事でもとりながら労ってはいただけないでしょうか?」 「フフ...喜んで」 先生は嬉しそうに微笑む。

「...ッ」 怒りと焦りを足したような、なんともいない心の不快感。

「リーランド!!てめぇ!俺と勝負しろ!!」 感情のまま、吐き散らす。 「フッ・・・」 リーランドは鼻で笑い勝ち誇った顔で――― 「その勝負君の勝ちでいいよ。」

「テメエェェェーーーッ!!」 胸倉をつかみ殴りかかる。

ドンッ! 重く、鈍い音が響く。

殴りかかった相手が離れ、視界一杯に地面が広がる。 ズサーッ!と顔面を地面に擦りつける俺。

いってぇ・・!!! なんでいきなり吹っ飛んだんだ!?

突然の事態に困惑しながらも、立ちあがろうとするが――― 「そこで頭を冷やしてなさい!!!」 「グエッ!!」

今度は背中に衝撃。 衝撃に押しつぶされ、地面に叩きつけられる。

背中から冷気を感じ、ようやく俺は事態を理解した。 極大の氷を標的の頭上に精製、氷を急降下させ標的を押し潰し拘束する。 先生のお仕置き魔法だ。

今俺の背中には特大の氷が圧し掛かっているのだろう。 先生の氷の物理的な重圧は今までなんども受けたことがあるが、 今回の重圧は特に強い。

「さ、リーランドさん行きましょ!」 「あ..あぁ..。はい」 サッと背中を向け、カツカツと足音を鳴らして行ってしまう先生と、 呆気にとられている間に先に行ってしまった先生の後を追うリーランド。

「クソ...ッ!俺だって先生にッ・・・!渡そうと思ってたのにッ・・・」 俺に圧し掛かった氷は冷たく、心の底から身体を冷やした。


どれほど時間がたったのだろう。 背中の重圧はすっかり溶けている。

物理的重圧からは開放されている俺だが、地にひれ伏したままでいる。

はーー。先生とリーランドどうなったかなぁ。。。 先生プレゼント喜んでたなー。。。

はぁ・・・

立ち上がる機会を失った俺はずっとうじうじしていた。

「なんだぁ?この邪魔な鳥は?」 聞きなれない、男の声。

そうだ・・・!仕留めた獲物・・・っ! 「わ、悪い!すぐに道を開ける!」 急いで立ち上がるとボーーという音と、突然の熱気。 俺の仕留めた怪鳥は炎に包まれ、瞬く間に灰となってしまった。

「な・・・っ!」 なんだ・・っ!?3メートルはあったぞ・・!あんなデカブツが一瞬で・・?! この男がやったのか・・・!?

「なんだ、少年。いたのか。驚かせて悪いな。毛玉りの鳥に隠れて見えなかった。」 手入れの行き届いたぴっしりとした襟。 グラサンを掛けていてもわかる整った顔立ち。 髪は白くよく見れば小皺はあるが、清潔感もある。 歳はある程度いってそうだが、かなり見た目に気をつかっているでのあろう男。

(このオヤジ、絶対村の人間じゃないな。) 3メートルもあるデカブツを一瞬で灰する芸当なんて、この村の人間には不可能だ。 それにこの村にこんな雰囲気の人間は絶対にいない。

ギラついた女好きそうな雰囲気を感じさせるオヤジだ。

「お前もどっか燃えちまったか?焦げ後も男の勲章だ。」 グラサンオヤジは、ポンと俺の肩に手を置き一言いい、じゃあな。と片手を挙げ背を向けて立ち去ろうとする。

「・・・待てよ。」 俺は思わず呼び止める。 得体のしれない男が村に侵入することに対する不安もあるが、 なによりコイツを先生に会わせたくない。

「なんだ少年?俺に男の手当てはできねーぞ」 グラサンオヤジが足を止め振り返る。

「・・・なにをしにここに来た?ここはアンタのような人が来てもおもしろいもんなんか無いぜ」 「な~に警戒してんだ少年。村の警護、ご苦労様です!」

身構える俺に小ばかにしたような態度をとる男。

「答えろよッ!何しに来たッ!?」 「おいおい、感情的だな~。余裕のない男はモテないぜ~」

「・・はいはい。わかった。そう睨みつけるなよ。安心しな、人に会いに来ただけだ。なにも企んじゃいないよ。」 「その人ってのは男か?女か?どんな奴だ?」

「用心深いね~君も。女だよ女。」 「どんな女だ?!」

こいつの発言はどこかうさんく、不信感をぬぐえない。

「どんな女・・か・・。そうだなぁ・・・。美人で知的な雰囲気と上品なセクシーさを持ち合わせたような女だといいなぁ・・。胸はでかくなくてもいいんだ。だがケツはプリッとしていてほしいなぁ。」 いきなり鼻の下を伸ばし語り始めるグラサン。

「その人と会ったことあるのか?」 「いや、ないな。なんでも魔法の教師をしているらしんだが。そうだ少年、学校まで案内し――」 スケベオヤジが言葉を言い終わる前に、オヤジの顔面目掛け拳を振るう。

こんなスケベオヤジと先生を合わせちゃいけない――

シュッ! 拳の空を切る音。

な・・・っ!?

拳は空振りし、目の前にいた男は姿を消している。

「いやぁ~こんな熱心なファンがいるなんて、今回は期待できるぞぉ~」 後ろから浮かれた声。 そして振り向くまもなく、俺の身体は宙を舞い背中から地面に叩きつけられる。

「さ~て、ぼくちんのお嫁さん候補はど~こかなぁ~~」 浮かれた足取りで村の中に進入していくグラサン。

「ま・・・待てッ・・!!」 上半身を起こし、立ち上がろうとする。 が、立ち上がる前に目の前にグラサン男。

コイツ・・・ッ!また一瞬で・・・ッ!

立ち上がれないよう、俺の額を二本の指で押さえている。 感情任せに食い下がっていたがコイツは目に見えない速さで移動し、巨大怪鳥を一瞬で灰にするような魔力の持ち主だ。 コイツがその気になれば俺も一瞬で灰にされてしまうだろう。

今更化け物を相手にしていたことを実感し、背中に冷や汗をかく。

俺の額を押さえる指に力がこもる。

くッ・・・ 思わず俺は目を強く瞑る。

「しつこい男は嫌われるぜ」 イテッ! グラサン男は俺にデコピンをし姿を消した。


ペンダントを持って先生に謝りに行こう。そして掛けられた魔法を解いてもらおう。

一人きりの自宅に帰ってから寝込み続ける俺は決心した。

グラサン男を取り逃してから、ガンガンと頭痛が止まない。 逃げられた直後は、デコピンの物理的痛みしか感じなかったが、 時間がたつにつれ頭痛の痛みがやってきた。 今では時より、誰かの声のような叫びごとも笑い声とも言えないものも聞こえる。 相当重症だ。

おそらく、魔法だ。 グラサン男が俺に邪魔されまいと掛けたのであろう。

事実効果は絶大で、少しの時間は追うことに時間を使えたが、 時間がたてば自宅に帰るのが精一杯で奴を追うことも、村の人に知らせることもできなかった。

頭痛に悩まされる体を起こし家を出る。 外はすっかり夜だ。 先生のおかげで村の生活が便利になったとはいえ、明かりをつけている家は少なくあたりは真っ暗。

(暗いな・・・。) (こんなとき一緒に住む家族がいてくれたらな・・・)

(・・・これがおセンチな気持ちってやつか・・・・)

普段思わないようなことも考えながら真っ暗な夜道を一人。 俯きぎみに歩く。

歩けば歩くほど、進めば進むほど頭痛がひどくなっていく。 幻聴の声も大きくなった気がする。

足取りもおぼつかず、なにもないところで躓き転ぶ。 今更転んだ痛みなど気にならない。 それほどまでに圧倒的頭痛だ。

(すこし休憩しよう・・・)

転んだままの体制で休憩しようと目を瞑る。

「進めッ!!!!」 低く太く、深く響く声が頭に響く。

驚きのあまり体を起こそうと両腕に力を入れる。 力を入れすぎたのか、体が浮く。

(なんだ今の・・・。) (頭痛すぎて力加減もできなくなってら・・・。) (あと少しで先生の家だ・・・) (先生もう帰ってるよな・・・)

あともう一踏ん張り。 俺は顔を上げ、気合を入れる。

「ん?なんだ?流れ星か?」 夜空に光る飛行物体。 流れ星だ。 しかし、異様に遅い。 今まで何度か見てきたことあるが、ここまで遅い流れ星は初めてだ。

頭痛に悩まされながらもようやく先生の家が見えるところまで来た。 先生の家に近づくにつれ、ひどくなっていった頭痛ともようやくおさらばだ。

やっと着いた。 幸いなことに、先生の家の明かりは灯っている。

一歩、二歩と先生の家に近づくと、家の前に人影。 誰かが窓にしがみつき、中を覗いているのだ。

アイツは・・・グラサン野郎!!!

頭痛に悩まされる頭に、怒りの血が上る。

何とかあの変態覗き魔をぶちのめしたい。 しかし、相手は万全な太刀打ちできないバケモノだ。

頭痛に悩まされる今、敵う見込みは果てしなく0だ。

(せめて一撃でも食らわせてやりてぇ・・・!!) グッっと右手に力が篭もり、手の中になにか握っていることに気づく。

真ん丸い石のような感触。 無意識のうちに拾ったのか、ずっと握っていたのか、頭痛に苦しめられる俺にはわからないしどうでもいい。

腕を大きく振りかぶり、左足を上げ、投擲の姿勢に入る。 体調に反し、体はスムーズに動く。

覗き魔はこちらに気づき、窓から手を離しこちらに体を向ける。

「喰らえ・・・ッ!!」 腕を振りぬき、憎き相手を目掛け放り投げた。

放った物体は今だかつて無い投球スピードで標的へと向う。 (当たる・・・っ!) グラサン男は左手で右手の手首を掴み、右手でキャッチ。 が、勢いが殺しきれないのか、体が後方に押し込まれている。

「ッ・・ハァッ!」 右手を振り払い、投げつけた物体を上空に受け流す。 上空に受け流された物体は、爆発。

雷雨を運ぶどす黒い雨雲のよう爆煙が天を包み、俺はフッと意識を失った。

「久しぶりだな。アーカルム」


ハッ!と目が覚める。 朝日が目に差込み、思わず手で日の光を塞ぐ。

ここは・・・

周辺の木はなぎ倒され、地面は隕石でも落ちたかのように荒れ果てている。 しかし幸いになことに、まったく知らない場所というわけではないようだ。

おそらく村周辺の森の中だろう。

「起きたか。少年。」 「てめぇは・・!」

俺は飛び退く。 グラサン男は横たわった木の上に腰掛け、 わっかの付いた棒にフーと息を吹きかけ泡を空気中に浮かせている。

「・・・お前さん、親は?」 真剣な口調で男に尋ねられる。

「いねぇよ」 「いつからだ?」 「ずっとさ、生まれてこの方、親なんてのに会ったことがねえ」 「そうか・・・」 フーと棒に息を吹きかけシャボン玉を飛ばす。

「そうだ!お前!俺に魔法なんか掛けやがって!!」 真剣な雰囲気に飲まれていたが我に返り男を詰める。

「魔法?」 「お前俺の頭に魔法掛けただろ!!」 悩む男。 「・・・?はっ!俺の事が忘れられないだとか、胸の高鳴りが~、とかまさかそういう類か!?」 またしても真剣な口調。

「そんなわけねぇだろ!頭痛だよ!頭痛!!!」 「安心したぜ・・・」 「当たり前だろっ!!!!!!」

胸を撫で下ろす男と、激昂する俺。

そんな恋みたいな症状が出てたまるかっ!

「少年。その頭痛、まだあるかい?思い当たる節は無いが診てやるよ。」 意識してみて気がついたが、頭痛はまったくない。 思えば目覚めた時から頭はすっきりしていたように思う。

「いや、今はな・・・」 (待てよ・・?これはチャンスかも??) 「あー今もあるね!最悪だ。さっさと解いてくれ。」 コイツには借りがあった。。 油断させて一発お見舞いしてやる!!

「そうか。ならこっちに来い。」 (よし!) 俯き頭痛に悩まさせる演技をしながら男に近づく。

「さーてと、診察しますかねぇ~。少年、見せてみろ」 (今だっ!) ガバッと顔を上げる。 「ウワッ!」 顔全体を包むほどの巨大シャボン玉が俺の顔に当たり弾ける。

ビシッ 「痛ってぇ~!!!」 「ハッハッハ。残念だったな。少年。」 文字通りシャボン玉に面食らい、その隙にまたしてもデコピンを受ける。

「で、頭痛はどうだ?」 「見ての通り、今まさに絶賛苦しみ中だよ。」 頭を抑えながら答える。

近づいてみて気がついたが、 男の服はボロボロ、グラサンはところどころ掛け、 体には出来たばかりであろう無数の傷があった。

「・・・なにが・・・あったんだ?」 恐る恐る尋ねる。 「・・・。お前、魔法使ってみろ。」 「は??今はそれ関係ないだろ。質問に答えろよ。」 「診察だ。診察の続き。」

「お前にやられたとこ以外どこも痛くねえよ!」 「ま、いいからやってみろ。何でもいい。とにかく魔力を搾り出してみろ。」 男は砂を払いながら立ちあがり、片手でトンを俺を押し退け距離を作った。

「ちっ教える気はないって事かよ。」 「そう拗ねるな少年。使えないわけじゃないんだろ?」 「うるせー!使わねえぞ!俺は!!!」 「なら使うにしてやろうかな。」 男はそう言うとポケットからペンダントを取り出す。

「それは・・!先生の!!てめぇ!いつの間に!!!!!」 「さて、使う気になったか?」 「返しやがれッ!!」

飛び掛りペンダントまで最短距離で手を伸ばす。 手は空を切り、手の中は空。

「そんな力任せじゃ女は振り向いてくれないぜ。」 真後ろから声。 一瞬で移動し背後を取られる。

「っ!」 振り向き、手を伸ばすも空振り。 「どうした?取り返したくないのか?」 声のする方へ後ろ回し蹴り。 空振り。 回し技、足と手のコンビネーション試すも空振り。 フェイント、先読みも成果を出さない。

「はぁ・・はぁ・・」 (付いていけねぇ・・・) 肩で息をしながら策を考えるが、何も浮かばない。 浮かぶのは失敗するビジョンだけだ。

「頑なに魔法を拒絶するね。お前さん。」 「むかつく野郎の言うことは聞かねェんだよ!俺は!」 右手を伸ばし、また避けられる。

「トラウマでもあるのか。暴走して誰かを傷つけたってとこだろう。」 「黙ってろッッ!!」 肺が痛みを訴えるが、無視。 スピードを上げ手数を増やす。

(ちくしょう・・・!!) 「いこじな奴だ。」 男は俺の手を飛び上がり回避し上空で静止。 手の届かない高さの空にまるで透明な足場があるかのように立っている。

「お前の気持ちはよくわかった。もう無理強いはしない。代わりにコイツを破壊する。」 右手に持った先生のペンダントを左手で指差す。

「やめろッ!!!」 手あり次第に石を拾い投げるつける。 が、石は男の目の前で一瞬停止し、俺に向けて振りそそいできた。

「ぐああっ!!」 (ダメだ、アイツから取り返せない・・・)

「頼む!そいつを返してくれ!!俺はそれでしか先生に恩返しできないんだ。」 膝を付き、頭を下げ懇願する。 「・・・」 男の返事はない。

「魔法はダメなんだ!前よりもずっと強くなってるのがわかる!今度は先生を!村のみんなを・・・ッ!!俺が・・ッ!!!!」 「そうか、あの村のせいで魔法が使えないのか。」 (え・・・?) 男は上空からゆっくりを地に足を着け、俺越しに手を村にかざす。 「ならば、あの村を消し飛ばしてくれるっ!!」

巨大な魔方陣が手の前に描かれる。 (なんだ・・・これ・・・)

初めて目にする魔法だが、肌で感じる。 男が放とうとしている魔法は、村を、いや村どころか国ですらも吹き飛ばすだろう。

「くそおおおおおおおおおお!!」 放たれる前に止めるしかない。 が、前に進もうにも目に見えない大波のような圧が俺の進行を阻む。

「頼む!!止めてくれ!!!!」 「己の力に恐怖するのは悪いことじゃないがな、克服なき恐怖は悲劇を生むだけだ。」

悲劇・・・。 俺がここで止めないと・・・。 先生が・・・村が・・・。 でも魔法を使ったら、もしかして俺が・・・。

「腹括れ!お前が止めなきゃどの道村はおしまいだ!想いを力に変えろ!」

やるしか・・・ねぇ・・っ!!

足でグッと大地を掴み、腹に力を入れる。

「そうだ!その覚悟がお前の魔力コントロールの第一歩だ!!!」 魔方陣が光り、圧がよりいっそう強くなる。

「いくぞ!!」

アルビトロン!!

視界の全てを支配するほどの大きさの光線。 地を削り、木を砕き、障害の全てを粉砕しながら向ってくる。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」 抑え続けてきた。燻らせ続けてきた体内燃料を燃やし尽くす。 体内の炎は内臓、血管を滾らせ、肌、身体を包む外気に熱を与える。 己の全てが逆流し、感情が炎に支配される。

先生の事、くっそたれタレのリーランドの事、動かなくなってしまった友達の事。 そして、ムカツクグラサン男の事。 すべてを砕くように利き手を握りこみ、炎の全てを右手に宿す。

迫る光線に向って突っ込み炎を宿した拳を振るう。

「一発殴らせろ!クソ野郎ッッ!!!」 拳と光がぶつかる。 光が弾け、視界の全てを奪った。

弾けた光が消え去る。 残ったのは男が両手で俺の拳を受け止める姿だった。

「やっと触れてやったぜ。クソ野郎・・・。今度は顔面に叩き込んでやる。」 「ふ・・・。俺の美肌は男には触らせねえよ。」

チッ・・・。 ふっと力が抜け、倒れかける俺を男が支える。

「意識はあるだろ?男の目覚めを待つのは趣味じゃないんでね。さっさと帰るぞ。」

・帰る、先生とあう⇒グラサンがすごい人であることを知る。 ・リーランドは王子だった。叔父さんの軍が村にくる。魔法を使える村民を兵士にしようとする。 ・先生連れて行かれる。二人で助けに行く。 ・なんかやばくなる、グラサンが助ける。 ・主人公グラサンと共に村をでる。

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 主人公は魔力の暴走で、人を傷つけた過去がありそれがトラウマ。 中に魔王がいるから魔力コントロールがうまくいってない。

グラサンおじさんは魔王を過去に倒したおじさん □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■